いよいよ適用間近!「監査上の主要な検討事項」(KAM)を総まとめ

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【目次】

1.「監査上の主要な検討事項」(KAM)とは

2.KAMの適用対象

3.KAMの決定プロセス

4.どのような事項がKAMになるか

・株式会社三菱UFJフィナンシャルグループの事例

・日立金属株式会社の事例

まとめ

参考基準

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1.「監査上の主要な検討事項」(KAM)とは

「KAM」はKey Audit Mattersの略で監査上の主要な検討事項(以下、KAMという)のことです。(監査基準 第四 報告基準 二(2))

財務諸表監査の基準である「監査基準」の改定に伴い、監査の過程において監査人が特に重要と考えた事項を監査報告書に記載することが求められます。

近年の不正会計事案などを契機として監査に関する情報提供を充実させ、監査プロセスの透明性を向上させることを背景として2021年3月31日以後終了する事業年度(2020年3月期から早期適用可)から適用されます。

記載事項は基準の文例を以下の3点をポイントに記載します。

  • 監査上の主要な検討事項の内容
  • 監査上の主要な検討事項の決定理由
  • 監査上の対応

 

2.KAMの適用対象

KAMは金融商品取引法に基づく有価証券報告書等提出会社(非上場企業で会社法上の大会社※1に該当しない企業は除く)の監査報告書で記載が求められます。

※1 資本金5億円未満又は負債200億円未満

 

KAM決定のプロセス

監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査人の判断に基づき、当年度の財務諸表監査において特に重要な事項を選択することによって、KAMを決定します。

下図の通り、監査上の論点のうち特に重要な事項がKAMとして選択されます。

連結財務諸表を作成している場合は連結と単体でそれぞれKAMを検討し、連単で別のKAMが発生することもあります。

 

KAMの文例

監査報告書においてKAMを記載する場合、以下の文書が記載されます。(監査基準前文 二1(3) )

監査上の主要な検討事項

監査上の主要な検討事項とは、当連結会計年度の連結財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。監査上の主要な検討事項は、連結財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において対応した事項であり、当監査法人は、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。

当監査法人は、当連結会計年度の連結財務諸表の監査において、以下の事項を監査上の主要な検討事項とした。

1.XXXXX

2.XXXXX

 

 

どのような事項がKAMになるか

会計上の処理を検討するにあたって、高度な専門的判断を要する事項がKAMになる可能性が高いと考えられます。

早期適用の事例を見てみますと下記のような事項がKAMとして報告されています。

  • 株式会社三菱UFJフィナンシャルグループ(2020年3月期)の事例

EDINET

【KAMとなった事項】

  • 【連結】貸出業務における貸倒引当金の算定
  • 【連結】買収・出資に伴うのれん及びその他の無形固定資産の評価
  • 【単体】子会社株式の評価

 

【連結】貸出業務における貸倒引当金の算定

三菱UFJフィナンシャルグループは三菱UFJ銀行を中心とする銀行グループであり、中核的な業務として資金の貸出業務を行っています。この貸出した資金に対する貸倒引当金は多額なものとなっており、また回収可能性の判断において専門的な判断を必要とします。

また、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、融資が増加傾向にあり、将来の不確実性も高まっていることからもKAMとして取り扱っています。

 

【連結】買収・出資に伴うのれん及びその他の無形固定資産の評価

経営戦略としてグローバルに買収、出資、資本提携を行っている同社は買収に伴いのれんや無形固定資産が計上されています。のれんや無形固定資産の評価においては将来キャッシュ・フローの見積りといった専門的な判断が必要になり、その評価の結果、減損損失として多額の損失が発生する可能性があります。

また、2020年3月期においてはPT Bank Danamon Indonesia, Tbk.及びFirst Sentier Investorsの買収に伴い、「代理店との関係」及び「顧客関連資産」という無形固定資産が発生しており、その評価を慎重に行う必要があることからKAMとして取り扱っています。

 

【単体】子会社株式の評価

三菱UFJフィナンシャルグループは同グループ会社の持ち株会社として多額の子会社株式を保有しています。このうち、市場価格のない子会社株式を8兆5,610億円計上しており、その実質価額の評価について専門的な判断を必要とし、実質価額が著しく低下している場合は減損処理が必要になり多額の損失が発生する可能性があります。

同社は市場価格のない子会社株式の金額的重要性が高く、KAMとして取り扱っています。

 

  • 日立金属株式会社(2020年3月)の事例

EDINET

【KAMとなった事項】

  • 【連結】のれんの評価及び有形固定資産の減損
  • 【単体】有形固定資産の減損

 

【連結】のれんの評価及び有形固定資産の減損

子会社を買収し重要なのれんが計上されています。のれんについて減損の兆候がないかその資産性の評価が必要になります。

また、希土類磁石事業の事業環境の変化により同事業にかかる有形固定資産の減損損失を計上しています。

これらの減損損失の計上に関する検討においては、将来キャッシュ・フロー、割引率の見積りにおいて経営者による主観的判断や専門性が伴うことからKAMとして取り扱っています。

 

【単体】有形固定資産の減損

連結で開示している有形固定資産の減損と同様です。

 

まとめ

KAMについてポイントを絞ってまとめさせていただきました。

KAMの決定プロセスにある通り、監査人は監査上の検討事項のうち監査役等との協議の上でKAMを選定します。

監査報告書上でKAMと開示されると非常に目立つこととなりますので、会社側も監査基準やKAMの早期適用事例を参照し、KAMの理解を深めた上で監査人との協議に臨み、適切なKAMの選定に取り組んでいただければと思います。

 

参考基準

「監査基準の改訂について(公開草案)」企業会計審議会監査部会 (2020年9月4日アクセス)

「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集」公益社団法人日本監査役協会(2020年9月4日アクセス)