「会社法の一部を改正する法律」の改正ポイント

1.概要

会社法の一部を改正する法律案が2019年12月4日に国会にて可決成立しました。改正内容についてポイントを分けて解説していきます。

法務省のHPに交付された法律、新旧対照条文が掲載されています。

法務省HP http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html (最終閲覧日:2022年11月8日)

 

なお、本記事は改正のポイントをまとめたものであり、実務上の検討にあたっては根拠条文をご参照ください。

 

2.改正のポイント

本改正の主なポイントは以下の通りです。

  1. 株主総会資料の電子提供制度の創設
  2. 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
  3. 取締役の報酬に関する規律の見直し
  4. 会社補償に関する規律の整備
  5. 役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備
  6. 業務執行の社外取締役への委託
  7. 社外取締役を置くことの義務付け
  8. 社債の管理に関する規律の見直し
  9. 株式交付制度の創設

1.株主総会資料の電子提供制度の創設

第325条の2~第325条の5が新設され株主総会資料の電子提供制度が創設されました。(新旧対照条文P15~23より)

株式会社は定款で電子提供措置をとる旨を定めれば以下の書類をウェブサイトに掲載する等の電子的な形式で株主に提供することが認められます。

  • 株主総会参考書類
  • 議決権行使書面
  • 計算書類及び事業報告
  • 連結計算書類

書面での資料提供を希望する株主は,書面の交付を請求することができます。

 

留意点

  • 株主総会の日の3週間前までに情報を掲載する必要があります。(第325条の3)
  • 株主総会の日の2週間前までに掲載するウェブサイトのアドレスを記載した招集の通知を株主に発出します。(第325条の4)
  • 株主が書面交付請求をした場合、株主総会の日の2週間前までに株主総会の招集通知とともに、株主総会資料を書面で提供します。(第325条の5)

2.株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

ひとりの株主が膨大な数の議案を提案するなど、株主提案権の濫用事例が発生したことに伴い第305条4項、5項が新設されひとりの株主が提案できる議案の上限が10に設定されました。(新旧対照条文P9~10より)

 

留意点

  • 役員の選任に関する議案は人数に関係なく一つの議案とみなす等、議案の数え方が定められています。(第325条4項各号)
  • 10を超える議案について、どこまでを議案として受理するかは原則として取締役が選定します。ただし、議案を提案した株主が優先順位を定めている場合は、その優先順位に従います。(第325条5項)

3.取締役の報酬に関する規律の見直し

取締役の個人別の報酬の内容について、手続きを透明化させるための条文が新設されました。(新旧対照条文P26~28より)

  • 取締役の報酬として株式等を付与する場合の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限等を加えることが求められます。(第361条1項)
  • 上場会社等(第361条7項各号で定める)において、取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合には、取締役会はその決定方針を定め、その概要などを開示しなければなりません。
  • 上場会社が取締役の報酬として株式を発行する場合には、出資の履行を要しないものとなりました。(第202条の2、第236条3項~4項、第361条1項及び第409条3項)
  • 事業報告による情報開示を拡充が求められます。

 

留意点

  • 取締役の株主総会の議案に含める必要があります。(第361条)
  • 上場会社等は取締役の個人別の報酬の決定方針についての詳細は法務省令で定められる予定です。(2020年1月5日現在未公表)
  • 定款に報酬の決定方針を定めた場合は株主総会決議を省略できます。(第361条)

 

4.会社補償に関する規律の整備

第430条の2が新設され会社が役員等の職務執行における責任を補償する契約に関する規律が創設されました。(新旧対照条文P32~33より)

  • 会社が役員等の職務執行の責任及びその賠償を補償する契約を締結する場合、その内容を株主総会(取締役会設置会社は取締役会)で決議することが求められます。(第430条2 1項)

 

留意点

  • 会社が自社の役員の職務執行の責任を補償する契約に適用されます。
  • 社会通念上、通常要する金額を超える費用や損失を補償する契約を締結することは出来ません。(第430条の2 2項)

 

5.役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備

第430条の3が新設され会社が保険会社と締結する役員等賠償責任保険契約に関する規律が創設されました。(新旧対照条文P34~35より)

  • 役員の職務執行の遂行において発生した賠償責任を補償する契約(役員等賠償責任保険契約)を締結する場合、その内容を株主総会(取締役会設置会社は取締役会)で決議することが求められます。(第430条の3 1項)

 

留意点

  • 会社が自社の役員の職務執行の責任を補償する契約を保険会社と締結する場合に適用されます。

 

6.業務執行の社外取締役への委託

第348条の2が新設され社外取締役に業務を委託できる法律が創設されました。(新旧対照条文P25~26より)

  • 業務を遂行するにあたり、株式会社と取締役の利益が相反する場合に、当該業務を社外取締役に委託することが出来ます。(第348条の2)

 

留意点

  • 会社と取締役の間に利益相反関係がある場合は、社外取締役に職務執行を委託してもその社外性が損なわれないこととなりました。(第348条の2)
  • 業務委託の判断は取締役(指名委員会等設置会社及び取締役会設置会社は取締役会)にて行います。第348条の2 1項及び2項)

 

7.社外取締役を置くことの義務付け

第327条の2が改正され上場会社等は社外取締役を設置することが義務付けられました。(新旧対照条文P23~24より)

 

留意点

  • 上場会社等の定義については第327条の2に定められています。

 

8.社債の管理に関する規律の見直し

第714条の2~4,第737条第1項が新設され、社債管理について社債管理補助者を設定する規定が創設されました。(新旧対照条文P38~41,46)

社債権者において自ら社債を管理することができる場合を対象として,会社は社債権者のために、社債管理補助者に社債の管理の補助を委託することができるようになりました。(第714条の2)

 

留意点

  • 社債権者において自ら社債を管理することができる場合とは各社債の金額が1億円以上である場合を指します。
  • 社債管理補助者の資格と権限については定めがあります。(第714条の3~4)

 

9.株式交付制度の創設

従来は、取得する会社の株式の対価として自社の株式を発行する株式交換は、取得後の会社が完全子会社になる必要がありました。しかし、第774条の2~11,第816条の2~10が新設され、完全子会社以外の取得においても自社の株式を対価とできる株式交付制度が新設されました。(新旧対照条文P48~73)

  • 完全子会社とすることを予定していない場合であっても,株式会社が他の株式会社を子会社とするため,自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができるようになりました。(第774条の2~11)

 

留意点

  • 株式交付を行う場合は、株式交付計画(第774条の3にて規定)を作成しなければなりません。(第774条の2)
  • 作成した株式交付計画は書面または電磁的記録にて本店に据え置く必要があります。(第816条の2)

 

3.その他改正事項

その他、細かな改正点として以下の事項があります。

  • 社債権者集会の決議による元利金の減免に関する規定の明確化がなされました。(第706条第1項)
  •  議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由の明文化がなされました。(第311条第4項,第5項)
  •  会社の支店の所在地における登記の廃止が行われました。(第930条~第932条)
  • 成年被後見人等についての取締役の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備が行われました。(第331条)

 

4.施行日

当該法律は公表より1年6か月以

1.株主総会資料の電子提供制度の創設 2023年3月末以降に開催される株主総会より適用(上場企業は必須)
2.株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備 2021年3月1日以降に適用
3.取締役の報酬に関する規律の見直し 2021年3月1日以降に適用
4.会社補償に関する規律の整備 2021年3月1日以降に適用
5.役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備 2021年3月1日以降に締結される保険契約に適用
6.業務執行の社外取締役への委託 2021年3月1日以降に適用
7.社外取締役を置くことの義務付け 2021年3月1日以降に適用
8.社債の管理に関する規律の見直し 2021年3月1日以降に適用
9.株式交付制度の創設 2021年3月1日以降に適用